義民のあしあと

西谷村又兵衛(平尾代官所跡)



大和国吉野郡龍門郷(現在の奈良県吉野郡吉野町・宇陀市)の15か村は旗本・中坊広風の知行所でしたが、出役(代官)の浜島清兵衛が増税を強行しようとしたため、文政元年(1818)、西谷村又兵衛ら6百人ほどが平尾代官所に押しかけて代官を殺害し、平尾村大庄屋宅を打ちこわす「龍門騒動」が起こります。奈良奉行所による吟味の末、西谷村又兵衛が市中引回しの上獄門、ほか多数が死罪や追放、過料といった処罰を受けました。現地には代官所が置かれていた跡が残ります。


目次
  1. 平尾代官所跡の概要
  2. 平尾代官所跡へのアクセス
  3. 義民伝承の内容と背景
  4. 参考文献



平尾代官所跡へのアクセス

注意
文中に特定の場所の緯度・経度が記載されている場合は、検索ボックス内に値(例えば「35.689634, 139.692101」)をコピーして検索ボタンをクリックすれば、該当する場所の地図(Googleマップ)が表示されます。

名称

平尾代官所跡 [参考リンク]

場所

奈良県吉野郡吉野町大字平尾地内
(この地図の緯度・経度:34.4111, 135.8882)

備考

「平尾代官所跡」は、奈良県道28号吉野室生寺針線沿いの福田寺(代官・浜島清兵衛の過去帳がある)や辻井歯科医院から、やや北に入った場所にあります。
公共交通機関の利用であれば、近鉄吉野線の大和上市駅を出発する吉野町コミュニティバス(スマイルバス)Aコース・中竜門巡回線に15分ほど乗車し、津風呂湖北口バス停で降ります。付近は松尾芭蕉が『笈の小文』の道中で宿泊した場所に当たり、「花の陰謡に似たる旅寝哉」の句碑がバス停の根元に建っています。
バス停の向かいにある幸の神神社の角を40メートルほど進むと代官所跡ですが、現況では畑になっていて、石垣のみが残されています。



義民伝承の内容と背景

大和国吉野郡龍門郷(今の奈良県吉野郡吉野町・宇陀市)の15か村3,500石は旗本・中坊広風の知行所でしたが、文政元年(1818)12月15日の夜、西谷村又兵衛ら6百人ほどが平尾代官所(今の吉野町)に年貢減免を強訴する「龍門騒動」が起こります。

当時の龍門郷の年貢は、最初に一部を米のまま納め、その米を代官所が市場で売却した際の平均価格に応じて、残りの部分を金銭に置き換えて(石代銀)納める仕組みでした。

ところが、代官所では米納分を増して精米の品質を厳しく検査したほか、1石あたりの銀の値段も引き上げて年貢の増徴を図ろうとしたため、同じく生産性の低い山間地にある周囲の幕府領に比べて過重な負担に対する年来の不満が爆発します。

吉野郡西谷村細峠にいた商人の又兵衛は、同村の源八や三津村善兵衛ら(以上ともに今の吉野町)と語らい、庄屋の屋敷の門に張札をして、15歳から60歳までの男子は山口大宮(吉野山口神社)に集合して強訴に参加するようにと村々の百姓を扇動します。

この動向を事前に察知した出役(代官)の浜島清(浜島清兵衛、浜島市太夫ともいう)は、大庄屋を代官所に集めて饗宴を開き懐柔しようとしますが、寺の鐘鳴を合図に代官所に押し寄せた600人ほどの百姓に一同は狼狽し、陣屋内を逃げ惑う騒ぎとなります。

代官の浜島清兵衛は厠(便所)に逃れたところを見つかったため、比曽村(今の吉野郡大淀町)百姓の定吉を一刀のもとに斬り捨て、なおも屋根に登って防戦しますが、これに激昂した一揆勢の竹槍で屋根から庭に突き落とされ、ついには刺殺されてしまい、江戸時代を通じても稀な、代官殺害にまで至る過激な一揆となりました。

一揆勢は代官所のほかにも平尾村大庄屋の池田沢右衛門の屋敷などを打ちこわした後、さらに15か村の中で唯一参加しなかった矢治村(今の吉野町)へも押しかけようとしますが、夜が明けたために断念してそれぞれが帰村し、「龍門騒動」は1日で収束します。

騒動を知った奈良奉行所では、早くも12月19日には役人を平尾に出張させ、306人ほどを召し捕って奈良に連行し、その後も騒動に加担した14か村の百姓を順次取り調べ、文政3年12月(1821年1月)、徒党狼藉は不届至極として、西谷村又兵衛を奈良町引き廻しの上陣屋最寄で獄門、西谷村林蔵ら3人を死罪とし、他の者にも所払や過料などの裁決を下します。

ただし、又兵衛らは実際にはすでに牢死してしまっていたため、「死骸取捨」を申し付ける取扱いとなり、村に重罪者の遺体が戻ることはありませんでした。

この一揆後には減税や分納も認められるようになったといいますが、「龍門騒動」の記憶は「一つとや 竜門騒動は大騒動 二十まで作りた手まり唄 歌おうかいな」から始まる数え歌になって地元に残されています。



参考文献・参考資料


リンク先のAmazonのページ下部に書誌情報(ISBNコード・著者・発行年・出版社など)が記載されています。リンクなしは稀覯本や私家本ですが、国立国会図書館で借りられる場合があります。



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